話題のニュースに迫る企画「こちらサンスポ社会班」(随時掲載)は、新型コロナワクチン接種の課題に焦点を当てる。作家の篠田節子さん(65)は、1995年発表の小説「夏の災厄」が現代のコロナ禍を予言したと話題になった。80年代に市職員として予防接種業務に携わった経験から、国内のワクチン開発の遅れや“ワクチン後”の社会変化に強い危機感を抱いている。(取材構成・丸山汎)
篠田さんは1991年まで約13年間、東京・八王子市役所に勤務。80年代には保健予防課で日本脳炎や3種混合ワクチンなどの予防接種に携わった。その経験を生かし、「夏の災厄」では未知のウイルスで社会がパニックに陥るさまを描いた。
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それから四半世紀。同作がコロナ禍により再注目を浴びた直木賞作家が本紙の取材に応じ、国内で進み始めたワクチン接種について「コロナの予防ができればいい、というものではない」と力を込めた。
自身は2018年に乳がんと診断された。手術と治療で状態は良好だが、基礎疾患のある人はコロナの重症化リスクが高いとされる。ワクチン接種に対して「打つことで行動の制限がなくなるのなら、私は接種する方を選ぶ」という考えだ。
ただ、接種しない自由も守られるべきだと訴える。接種に携わった当時、副反応による健康被害などで集団訴訟が多発した。その事情を熟知しているだけに、「接種による利益とリスクを冷静に見極めて、それぞれが判断しなくてはいけない」と呼びかけた。
大きな危機感を抱くのは、国内のワクチン開発の遅れだ。日本は当面、海外製の輸入に頼らざるを得ない現状。世界的なワクチン争奪戦で、供給には不安がつきまとう。感染力が強いとされる変異株は、既存のワクチンの有効性を低下させるとも指摘されている。
「より致死率が高いウイルスが入ってくる危機は必ずある。必要なときに素早くワクチンを開発生産できる基盤が、国内にないといけない。民間企業にリスクを負わせるのでなく、研究開発には国の支援が不可欠だ」
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